* CEM3350 SVF VCF *

ネットを見渡しても CEM3350に関する情報は少なく、Data Sheetもわずか2pageの簡単なものしか無いようです。 国内での情報は皆無というか3350に限らず CEM/SSMのsynth chip情報はほぼ海外の情報のみ。 実際、メーカのsynthでも CEM3350採用機種は知る限りでは3機種のみ、 DIY物が1機種となっています。

・ ARP CHROMA(1981)
・ CRUAR SPIRIT (1983)
・ SYNTON SYRINX(198?)

DIY
・ DIGI SOUND 80modular

IC chip自体は1981年に発表されたようです。

上記にdata sheetの回路構成図を示します。 SVFのはずですが通常の SVFに較べて変則的でちょっと見構成が理解できません。 LPF/BPF mode HPF/BPF modeの回路構成を書き直したものを以下に示します。

OTAを使ったSVF VCFでも OTAの電流出力に対して buffを付け電圧出力とし通常の電圧対応のSVFとしていますが。 CEM3350の場合chip構成を簡易化するためにも電流出力タイプの SVFとなっていることが動作を複雑にしているのでしょう。



* LPF/BPF mode *

Gmfおよび Gmqはそれぞれ電流出力のOTA cellです。
整理して書いた回路でもぱっと見はこれがSVF?と思ってしまいますがよく見ると通常のSVFの原理に沿った回路だということがわかります。 このSVFは同相入力タイプのSVFです。 よってMOOG VCFのようにQを上げていくと通過帯域のgainが減少するタイプです。 (*0)

2個のGmfが積分器を構成しています。 印加信号側のOTAは通常のSVFの加減算器と積分器がひとつになった構成なのでこのOTAの出力はHPFが隠れてしまいOTAの定電流出力はHPF特性ですが積分器としてはBPF出力となります。 それが右ののOTAと Cap.で構成される積分器を通って LPF出力となります。 それを初段の印加信号と逆相MIXして電流出力のHPF outを得る(*1)という構成です。

Gmqは resonance(Q)のコントロール用で、印加信号と BPFを逆相MIXする(*2)ことで"2次のSVFの動作原理" で説明した通り、notch filterを構成してそれが発振阻止の役割をになっておりこのMIX量が低下すれば Qが上昇するしくみなのでしょう。 GmqのOTAに帰還がかかっているのは定電流出力でなく単に電圧制御抵抗として使うためです。

Gmqに対しての CV入力は 上記のData Sheetの構成図からも CV入力を反転したものが印加されるようになっていて CVを上げるほど Gmqの出力が小さくなるようになっています。 さらに Gmq側の CVには Gmf側の CVも印加されていますので Fcに追従する要素が必要ということなのでしょうか?(*3)。

実は(*1)(*2)(*3)がこの回路の特徴を物語っています。

*0:
汎用OTAでシミュレートするとHP/BP modeでは通過帯域のGAIN減少はありませんがLP/BP modeでは通過帯域の減少はあります。 Data sheetを見ると FIXed(2) 入力では通過帯域の変化はなくVar(4)入力ではあると書いてあります。 LP/BP modeでは(2)の端子に入力しているのですがこれは実際のICで確かめてみないとよくわかりません。


このCEM3350の SVFは動作理解が普通のSVF回路より難しいので一般的なOTAの等価回路を用いてGmqのOTAの付近をシミュレートして見ました。

* 電圧特性 (Q関係) *

Gmqに対する制御電流大時(抵抗値小)


白: OTAの入力の両端子間電圧
緑: OTAの (+) IN
桃: OTA OUT (-) IN

OTAの両端子間電圧にNotch特性が出ておりそれを反映して BPF出力はQが低い。

Gmqに対する制御電流中時(抵抗値中)


Notch特性が弱くなった分 BPF出力のQは高くなる。

Gmqに対する制御電流小時(抵抗値大)


Notch特性が逆特性になって BP出力のQを増強させています。 これは予想外の反応ですが....。 こんなところがポイントかも知れません。


* 電流特性 (初段のCap.に流入する電流)*

Gmqに対する制御電流大時


黄: capacitorに流入する電流
白: Gmqの出力電流
緑: Gmf1のOTAの出力

予想通りCapacitorに流入する電流は2次のHPF特性で GmqのOTA outは notich特性の電流 。 Gmf1の出力電流は棚型LPFというのが意外です。


* 上記電流の位相特性


Gmqに対する制御電流小時


2次HPF電流のFcではQが上昇。 Notch特性が逆特性になって Gmf1の特性が通常の棚型HPF特性になっていますが1次のHPFであることが意外。


* 上記電流の位相特性

どちらにせよ通常の電圧出力型の SVFに較べてCEM3350タイプの電流出力型は動作がむずかしいように思えますが本質は同じSVFです。



LPF/BPF modeにおける電圧/電流特性のイメージ

Gmqまわりの動作がわかりにくいです。 Gmqの(+)と(-)端子間の電圧差がnotch特性でそれを受けて出力電流および入力電流がnotch特性。 Gmqの出力電圧は Gmf1のOutというか0.02uFのCap.により発生する積分電圧なので当然BPF特性。 Gmf1の出力についている0.02uFのCap.に印加される電流は当然 2次のHPF特性なのですがこれは Gmq(VCR)の出力電流とGmf1の出力電流が合わさった結果でGmf1outはQが小さいすなわちVCRのRが小さい時、棚型LPFの電流特性になっておりこの電流値はGmqを流れる電流に較べて小さい。

またQが大きいと棚型HPF特性になりGmq(VCR)を流れる電流に近づいていきます。 VCRの値値がさらに大きくなればGmqの電流経路が遮断されるに近い状態でその時は GmF1の電流はQの大きい棚型HPF特性ですが棚部分は最少になるので実質 Qの大きい2次HPFになります。 電流MIXタイプのSVFの動作は複雑で当初理解に苦しみました。

Gmqは上図のようにVCR動作ですので可変抵抗と等価です。 実際この回路の Gmq部分を抵抗に変えても同様の特性。 この抵抗値が大きい方がnotch filter効果は弱く小さい方が大きいのですが大きくするとFc位置でnotch特性でなくピークができますがBPF特性ではありません。 シミュレーションでは3KΩくらいでこのnotch特性が平坦になりました。 それより大きいとFcでピーク。


Qが小さい特はGmF1の特性が棚型LPFというHPFと逆な特性になるのが奇妙ですがその原因はGmF1の(+)入力端子の印加信号電圧の振幅と(-)端子に印加されるGmF2の2次LPF電圧の振幅が同じでなく差があり後者の方が大きいことからくる反応で電圧型のSVFのように単純に逆相MIXが生じないことに原因があります。

このように動作を複雑にしている原因は上図のように本来の積分器によるFilterに加えて電流入力型の1次Filterさらに直列型の1次filterが同時に動いているために複雑な動作となります。 この2っのFilterのFcはVCRのRの値と0.02uFのCap.の値で決まるのでVCRの値を変えてQをコントロールすることはこの filterのFcを動かしていることに他なりません。 また0.02uFのCap.とGmFの値で積分器のFcが決まるため0.02uFのCap.は計3っのfilterのFcにかかわる要素となります。

Fig1: 全体の電流/電圧特性の図
Fig2:定電流入力1次Filter、直列型1次Filterの説明図
Fig3:VCRとCap.に流れる電流MIXの特性
Fig4:Qが小さい特と大きい時で分流した電流の特性

やっていることは基本OP AMPのSVFと同じなのですが電圧出力をする為のBuffer AMPを省略してしまうとこれだけ複雑になってしまいます。



以下に各特性を示しますが電流MIXの様子がわかりやすいようにY軸はリニアスケール表示を基本とします。


GmF1まわりの電圧


* Qが大きい時(Y軸リニアスケール)

白:GmF1の(-)端子と(+)端子との差電圧(GmF1の電流出力と同特性)
緑:GmF1の(-)端子電圧
水:GmF1の(+)端子電圧
黄:GmF1のCap.電圧

基本 LPFの印加信号(SIG IN)電圧との逆相MIXですがSIG INとLPF電圧レベルが同じでないので出力電流は棚型HPFとなっています。


* Qが小さい時(Y軸リニアスケール)

上図と較べてさらにSIG INの電圧とLPFの間に差があるので出力電流はHPFになることができず1次の棚型LPFとなっています。


GmF1まわりの電流


* Qが大きい時(Y軸リニアスケール)

白:GmF1の定電流出力
桃:VCRを流れる電流
黄:GmF1のCap.に流れる電流

0.02uFの Cap.を流れる電流は棚部分がとれて普通のQの大きい2次HPF特性になるのでそれを積分したCap.の電圧特性はQの高いBPF特性になります。 棚部分の電流がVCRに流れるということでしょうか。 またFc以降の帯域でGAINが上昇しています。


* Qが小さい時(Y軸リニアスケール)

0.02uFの Cap.を流れる電流は上記と同様棚部分がとれてLPFからHPFに変化しており上図ではわかりにくいですがSlopeは2次特性になるのでCap.電圧はQの低いBPF特性となります。


電圧源、電流源はあわせて2個。 発生する電流は3系統です。

1:GmF1の定電流源はVCRと0.02uFのCap.により構成される定電流入力型の1次Filterに対して R(LPF特性)とCap.(HPF特性)のインピーダンス比で分流。

2:SIG INの分圧電圧がVCRと0.02uFのCap.で構成される1次filterに対して1次HPF特性の電流が流れる。 VCRのRの値が小さいすなわちQの小さい時の方がこの電流は大。

この3個の電流がVCRとCap.に対して重畳される。 定電流入力filterのRへの分流分はFc以降は低下するのでVCRに流入するのはFcの周波数付近まで。 これと1次 HPF電流の差(逆相MIX)がVCRに流れる電流。

cap.に流入する電流は定電流入力filterのCap.への分流要素 + 1次HPF電流の和。 両filternのFcは積分器のFcとは異なり 0.02uFの Cap.は共用されている。


通常は隠れて見えないGmF1定電流出力の分流結果ですがGmF1出力は単独では取り出せないので以下に分流具合の予想図を示します。 大枠は合っていると思われます。


* Qが小さい時の電流特性(Y軸リニアスケール)

上図の黄色の1次HPF電流とGmF outが分流したLPF電流によるMIXにより
1: VCRを流れる電流に notch特性の発生

HPFと黄色の1次HPF電流の同方向MIXにより
2: 棚型1次LPFがCap.を流れるに際しては2次HPFに変貌

定電流入力1次filterの特性によりGmF1電流はLPF特性の電流とHPF特性の電流に分離されます。 入力電流がどんな形でもLPF、HPFに分離されるのが不思議というか。 この際入力電流特性がフラットならおなじ大きさのLPF/HPF生成されますが、入力がフラットではないのでそれはLPF/HPFの大きさの差になってあらわれます。

並列filterの入力としての棚型LPFの棚の部分は分解されて電流が少ない方のHPF特性の通過帯域になります。

VCRの値が小さくてQが小さい場合はLPF成分が大きくこれはSIG INからのHPFの振幅と同様なのですが両者のFcは離れているため両者が干渉するのは積分器のFc付近のみでそれ以外は両者の特性が反映され積分器のFC付近にnotch特性が現れます。 この部分電圧的に見れば Cap.の流れる電流で発生した電圧がBPF特性、それに対してSIG INはフラットな特性ですから両者の逆相MIXで VCRの両端子はnotch特性の電圧が発生していることになります。

またHPF特性の分流分が小さく Cap.に流入する電流はSIG INからの1次HPF特性が主になりますが上記の図を見ると両1次HPFが重なって2次のHPFになるようです。 積分後の電圧特性はQの小さいfilter特性になります。

この反応、なぜかKORGのMINI KORG 700のトラベラーの逸話を思い出してしまいました。 実にCEM3350は synthのfilterっぽいfilterですね。



* Qが大きい時の電流特性(Y軸リニアスケール)

GmF1の分流成分にピークが発生しておりGmF1の特性としては棚型の1次のHPF特性。 この場合は上記っと異なりHPFの棚型部分がLPFの通過帯域となります。 1次HPFですがピークが大きくこのピークは LPF/HPFで分割されるため分割された両filterにピークができます。 LPF成分とHPF成分を較べるとHPFの方が大きい。

LPFとSIG INからの1次HPF電流とのFcが近くLPF側にピークがある為積分器のFc付近にはnotchでなく小さなピークができます。

cap.に流れる電流は分割されたHPF成分とSIG INの1次HPF成分でFc以前は後者によって前者の振幅が減算される形Fc以降は加算される形になり2次のピークの強い特性になり通過帯域の振幅がMIXされる前に較べて増加していますのでピーク感は減っています。


棚型HPF/LPFをLPF/HPFに並列filterで分解するとやはりLPF/HPF特性が出現するというのは当たり前かもしれませんが興味深い反応で両者の振幅レベルが異なっているので棚型になる。 両者の振幅レベルが同じであればフラットな特性として現れるのであれば普通のLPF/HPFの発生と同様。 両者がさらにピークを持っていれば棚型のBPF特性となるのでしょう。

GmF1の電流出力を分離したHPF成分とSIG INからのHPF成分が積分されそれがBPF特性。 もう一回積分して2次LPF特性、それとSIG INからの印加信号の逆相MIX。 電圧出力のSVFならここで2次のHPF特性が出るが CEM3350ではそうはならずこのGmF1電流にVCRに流れる分の電流が重畳されている状態。

この為GmF1電流は2次のHPF特性になれず棚型の1次のLPF --- BPF --- HPF特性と言うスロープがゆるい特性になっておりVCR電流がけずられることでよりスロープのきつい2次のHPF特性になる。 VCRの値が小さい時はよりVCRに流れるLPF電流を確保するためにGmF1 outは1次LPF特性になっているし単純なLPFではHPF分流分を確保できないのでFc以降は棚型になって HPFの通過帯域分を確保する。 出力がbufferされていないのであらかじめ流出分が補われてて系がバランスしているというイメージでしょうか。

ピーク部分を除けばVCRに流れ込む電流と逆にVCR側からCap.に流れ込む電流の大きさは同程度でこれがFcを境にクロスフェードしているイメージ。 VCRの値が小さい特はVCRからの1次HPF電流は電流値が大きいがQは当然小さくこれが Cap.に流入する電流として支配的なため積分された結果は振幅は大きいがQの小さいBPF特性となるので最終的にGmF1の(-)端子に印加される電圧は(+)端子に較べて大きい。 この為MIX結果はFcより低い帯域のGAINの大きいFc以降は小さい棚型LPF特性になっている。

VCRの値が大きい時はGmF1出力の特性にピークができており、分流比もcap.に向かう方が大きくなり積分結果はQが大きいBPF特性になる。 VCRから流入する1次HPF電流が少ないこともあってこの成分はCap.電流に対して通過帯域を上昇させる要素にはなるが上記のQが小さい時ほどは振幅に関与しないのでBPFの振幅は小さくなる。 GmF1の入力での電圧MIXの結果は Fcより低い帯域では振幅が小さくFCでピークを持ち Fc以降の帯域の振幅が大きい棚型HPF特性となる。 両者においてこの特性はVCRへの電流の流出、VCRからの電流の流入値とバランスする特性になっている。 ややっこしくはありますが電圧出力のSVFにくらべてよりダイナミックな電流変化が楽しめます。



以下に上記のグラフから得られる動作原理を示します。

1: フラットな入力信号電圧と逆相で入力される電流特性の変化

GmF1の入力やGmF1の電流出力まわりは基本フラットな入力信号電圧とLPF特性、HPF特性の電流MIXとなるのでMIX後は基本逆特性のfilter特性が出現します。 さらにこの場合両者の電流レベルがそろっていないので棚型部分が発生します。 この棚型部分は最終的な2次HPFでは消えています。

これはなんだろうと考えてみると電流MIX時のVCRを流れる電流に消費されるという動きをします。 棚部分が十分なくらいVCRを流れる電流が小さければ VCR側に電流が消費されてもQの高いBPF電圧を発生させるためのGmF1からの0.02uFへの定電流は確保されていることになるとも考えられそうです。 VCRのRが小さくなれば棚部分だけではVCRに流れる電流分を支えられないので特性が変化するしCap.に流れる分流も減少する?。


* 逆相MIXの原理(2次Filterの場合)


* 印加信号レベルと2次LPFのレベルが同じ時(Y軸リニアスケール)

1次特性のfilterの逆相MIXでは完全に逆特性(LPF/HPF)が生成されますが2次filtetrの場合はSIG INが逆相であっても2次filterの FCでの位相が90度回転しているのでFc前後の帯域では正相に近い位相になるためFc付近でピークが発生します。

この部分はSVFの動作原理のからみとしても重要です。 すなわちSVFは逆相MIXだけでなく系が帰還しててループしているのでほおっておけばFcで発振を誘発する構造であることの原理部分でもあります。



* 印加信号レベルが小さい時(1)(Y軸リニアスケール)

CEM3350 SVFのQが高い状態と同様の反応で棚型のHPFが発生します。



* 印加信号レベルが小さい時(2)(Y軸リニアスケール)

CEM3350 SVFのQが低い状態と同様の反応でHPFにはなりません。



* 印加信号レベルが2次HPFの1/2時(3)(Y軸リニアスケール)

なんと BPF特性になっています。




2:Qの値をコントロールする仕組み

SVFにおいてFc付近は正帰還がかかり、SVFの構造は信号がループする構造なのでFc位置での印加信号(SIG IN)電流量を下げることでQをコントロールしているわけです。 このCEM3350においてはVCR側に流れる電流とCap,側に流れる電流の分配でQをコントロールしているようです。

cap.に流れる成分は2次HPF特性なので積分すればピークの元となるBPF特性が生成される。  GmF1の定電流出力が並列1次filterの特性でLPF特性とHPF特性に分解されVCRの抵抗が小さい時は1次filterのFcが高くなりLPF成分が多くHPFは少なくなり積分される主な電流としてのHPF成分のピークが減るということです。

本質的にはOP AMPの SVFと同じ構造ですが、OP AMPの方は入力段の信号MIXに際してSIG INのFc付近での GAIN低下をBPF出力を逆相で戻しているのに対してCEM3350では積分器のBPF特性発生直前の部分で行うという違いがあります。

と言うかCEM3350の場合は電流MIXなのでOP AMPの SVFのように機能が分離されていないので同じ場所で複数の反応が同時に起こる。



3:特性変化の様子


* GmF1出力 0.02uF Cap.付近の電流の重畳と filter特性の変化

電圧型の普通のSVFと異なり GmF1の入力両端子間電圧差を反映してQが小さい時はGmF1出力は棚型の1次LPF特性になります。 GmF1出力端子の 0.02uFの Cap.に流入する電流はGmF1の定電流の分流分と VCRからの1次HPF特性の電流です。

重畳された結果の電流はFcより低い帯域ではGmF1の電流の振幅が落ちる方向で Fcより高い帯域では印加信号電流が加算される形で現れるので合成結果は2次のHPF特性が出現します。

上図左の一番下の図はGmF1の定電流とVCRを流れる電流のMIXの際にVCR電流がどのように作用しているかを示しています。 Fc以前は定電流の振幅を低下させる方向に、Fc以降は定電流の振幅を増加させる方向に働いています。 このグラフをよく見るとこれは1次の微分特性というか1次のHPF特性を示しています。 なので Fc以前の帯域は定電流出力の1次HPF特性を2次の HPF特性にするように働いておりFc以降は単に GAINの増加になっています。

1次の CR filterですからこの場合の1次Filterの Fcは VCRのRと0.02uFで決まる値ですから SVFのFCとは異なることになります。 VCRに流れる電流が大きいほどこの1次Filterの Fcは高くなり通過帯域での GAINもあがります。

今回のシミュレーションではSVFのFcは固定で特定Fcでの反応ですが、本来の CEM3350の Gmqの制御電圧には GmFのFcの制御電圧も加えられていることからそれはこの1次LPFのFcに関係するパラメータであることがわかります。 すなわちある程度GmQの値は GmFの Fcの値に近い範囲で追従する必要があると言うことです。

この電流MIX型の SVFは普通の電圧型のSVFに較べて大変この部分が複雑であることがわかります。 単純に使用するのであればこの部分はわからなくてもいのですがCEM3350使用の ARPの CHROMAの VCFを理解するにはこの部分の理解も必要だと思います。



* LPFの状態変化と GmF1電流出力の特性変化

GmF2のLPF出力に関しては VCRの値が大きいほど 2次LPFのQが上昇して通過帯域のGAINが下がる特性を示し、 GmF1の定電流出力は Qが小さいと棚型LPF特性、大きくなるに従って棚型BPF特性、Qの高い2次HPF特性と変化します。 Qが大きい特は VCRの値が大きくVCRを通しての電流のいきき最少になるのでSVF本来の 2次HPF特性が出てきます。



* HPF/BPF mode *

上記 LPF/BPF modeよりさらにわかりにくい構成ですが、2段目のOTA積分器の出力が BPF特性なので、前段の電流特性は 逆相のBPF特性だということがわかります。 よって初段の積分器出力部分はBPF特性それを積分した形の2次LPF特性が0.02uFのCap.に発生、この(-)BPF成分とGmq側の印加信号入力とのMIXでnotch Filter特性が発生しこれによりQをコントロール。 

なぜLPF/BPF modeのように印加信号の分圧が要らないのか?。 この回路のわかりにくい点は入力と出力が同じ nodeになっている点です。

以下に普通のSVFとの対応を示します。 これをみればOP AMPのSVFと本質的には同様の回路だということがわかります。  OPAMPのSVFの初段の加減算器を電流MIXにより省略している形です。 あとは470pと0.02uFによる分圧のテクニック。


* 電圧特性 *

Gmqに対する制御電流小時


白: BPF out
緑: HPF out
黄: 入力印加信号

入力印加信号に較べて HP, BPFのGAINは-30dB程度になっています。 これはGmq入力の470pとGmf1の0.02uFを反映してのことなのでしょう。 このため LPF/BPF mode時のような OTAに対する分圧がいらないようです。 テクニックですね。


Gmqに対する制御電流大時


各特性のピークがなだらか。



* 電流特性 *

Gmqに対する制御電流大時


白: GmF1の出力 (BPF特性)
水: 470pを通過する電流(微分特性)
桃: 入力側から0.02uFに向かう電流 (微分特性カーブのNotch特性)
赤; Gmqの出力に流入する電流(VCRを通過する電流)
黄: 0.02uFの Cap.に流入する合成電流(Fc以下2次の微分、Fc以降1次の微分特性)

上記 BPF電流はFcで180度位相がずれています。 また入力印加信号は470p Cap.およびGmq OTA出力直前で1次微分特性であり、両者の合成電流としてGmq OTA出力が微分カーブの notch特性になっているもようです。 これとGmf1の OTAの出力の BPF特性電流が0.02uFのCap.で積分された2次の逆相LPFとをMIXして上記の電圧特性の2次の HPFとなるのでしょう。

非常にわかりにくいですが、通常の SVFと同様 印加信号と逆相BPF信号とで Notch filter特性が発生しそれがQを抑える働きをするようです。

Gmqに対する制御電流小時


notch filterのピークが浅くなっている分 BPFのQが上昇して結果 2次HPFの肩特性も上昇しています。 Gmq OTAに流す制御電流が少ないほうが notch filterの効果が小さいということになるのでしょう。 すなわち BPF特性電流がCap.とRに分流する際の量がCap.の方がより多くなる。


* 上記電流の位相特性


HPF/BPF modeにおける電圧/電流特性のイメージ

LP/BPF modeに較べると2っのOTA(GmF)に対する入力はシンプルで印加される信号が位相反転して出てくるだけですが、そのかわりにGmF2のoutの0.02uFのあるnodeの電流MIXが複雑になっています。

(1)、(2)、(3)に該当する電流特性が普通のSVF と較べると特殊な特性。

印加信号は470pを介してGmf2の(+)に印加されている形で 470pと0.02uで分圧されている。 470pの両端子間電圧は2次のHPF出力に較べて40倍近く大きいのでフラットに見える。

Gmqの OTAの接続は Gmf1の出力と GND間でVCR動作をさせる接続。 抵抗値が大きいとnotch filter効果が弱く、小さいと大きい。 これは抵抗値が大きいほうが BPF電流が(3)の経路に侵入する量が減るためか。 (3)の経路は印加信号の微分特性電流と逆方向のBPF特性電流との和。  結果 LP/BPF modeと同様ここで notch特性の電流が発生しています。

470pを通過した信号電流は微分特性。 それが0.02uFの Cap.に入ればフラットな特性。 一方Gmf1出力は逆相BPF特性でそれが積分されれば逆相2次LPF特性。 両者が合わさることで2次のHPFが電圧として表れそれが Gmf2の(+)端子に印加されている形。


わかりにくいので OP AMPの SVFとの比較を以下に示します。


*OPAMP SVF / CEM3350 HP/BPFmodeの比較

上図の OP1のoutの2次のHPF OUTがCEM3350では(B)のノードとなっています。  またOP AMPの(A)のノードには直接印加信号電圧がかかって(-)端子は2次のLPF電圧がかかり逆相MIXされますが、 CEM3350の方は(B)のノードで最終的には印加信号電圧と逆相2次LPFのMIXで2次のHPFが生成されるのは同様なのですが基本は電流MIXでそれがCap.の積分作用を通して2次HPF電圧になるイメージです。 源電流は微分電流と逆相BPF特性電流で微分電流にはnotch特性が内包される形でこれは逆相BPF電流と微分電流の力関係で生じた特性となります。

OP AMPの方は(A)のnodeにかかる印加信号電圧のゲインを下げる形でBPFの帰還によりnotch特性が現れ Fcの正帰還具合をコントロールするのが電圧変化として明白に見えますが CEM3350の場合は印加信号側から(B)nodeに流入する電流が同様の特性になっています。

470pと0.002uFの電圧の分圧過程、すなわちCap.の直列回路で共通微分電流が発生し0.02uFのCap.の積分作用でフラットな分圧された電圧特性がここに生じることがポイントかも知れません。


上の電流特性図は省略があります。 省略しないで書くと以下のとおり。

VCRと0.02uFで構成される filter回路は2っのfilter回路を兼用しています。

1:定電流入力型並列1次LPF...... VCRとCap.でFcが決まる。 定電流はBPF特性
2:CR1次HPF....................... VCRとCap.でFcが決まる。 入力はSIG IN



*CEM3350 HP/BPFmode電流MIX詳細


以下の BPF特性の電流の分流(LPF/HPF成分に分解)の様子を示します。 LP/BP modeと異なり HP/BP modeにおいては GmF2の積分器もBPF出力なのでGmF1側からの定電流は直接とりだせませんがこれを利用してシミュレートとしました。


* BPF特性のの分流(Qが小さい時) (Y軸リニアスケール)


* BPF特性のの分流(Qが大きい時) (Y軸リニアスケール)

LPH/BP mode においては GmF1の出力電流はLPFかHPFだったにに対してHP/BP modeにおいてはGmF1定電流出力はBPF特性です。 これが並列1次filterでLPF/HPF成分に分離されるわけですが結果は両方ともBPF特性になります。 これは考えてみれば当然の結果ではあります。

VCRのRが大きければ両Fcは近いので生成されるBPL、BPHは同じ形に近づきBPLの振幅は低下するのでnotchは小さく、BPHの振幅は増加するので積分結果はQの大きい2次LPF特性となる。

さらに積分で生成された2次LPF特性の電圧はSIN INからの電流が Cap.に入力する際は微分特性なのでフラットな特性となりここで逆相MIXされ2次LPF特性が2次HPF特性になるようです。


OTAの定電流のBPF特性のFcと上記 filterのFcは異なります。 Qが小さい特、 VCRの値は小さいので定電流入力型のfiltのFcの方がBPF特性のFcより高い。 Qが大きくなるに従ってBPF特性のFcに近づく。

定電流入力型のfilterのVCR側はLPF特性、0.02uFのCap.側はHPF特性。 これに定電流のBPF特性が作用するので大元の定電流のBPF電流は上図のように BPLとBPHに分流する。  BPLはnotch特性を作る元となりBPHは積分されて2次のLPF特性電圧になる。

両 Fcの位置によって生成される BPL、BPHの特性振幅が変化する。 VCRのRが小さい方がBPLは大きく、BPHは小さいのでnotch特性は大きくBPHの積分結果としてはピークが小さい2次LPFが生成される。

上記のようにOTA+ cap.の積分器のFcと2っの1次 filterのFcは関連性があるのであまりにFcが離れていると生成される特性が変なものになってしまいます。 そのことからCEM3350のGmqのOTAに対してGmFのOTAとのトラッキングを取る必要が生じFcのCVがQコントロール用のGmq二加算されていてさらにQコントロール用の CVがQCVと反転して加算されていることとなります。

OP AMPの SVFに較べると電圧出力でないとこうも動作がわかりにくくなるのかと思いますが IC設計にあたっては内部構成部品が減るほうが有用ということなのでしょう。


LP/BPF mode HP/BPF modeの特性 (一般的なOTA等価回路でシミュレート)

Gmqの抵抗R=500K相当と1K相当時の周波数特性
* 500K相当 High Q BP/LP/(Notch電流)


* 1K相当 Low Q BP/LP/(Notch電流)


* 500K相当 High Q BP/LP/(Notch電流)


* 1K相当 Low Q BP/LP/(Notch電流)



CEM3350の情報は少なく、使用synthも少ないのですがこの CEM3350はCES(curtis)のdoug curtis氏の自信作らしく、1981年当時のCESが発行していたsynthesouceというNewsletterのNo2号に7pageの特集が組まれていました。 また1997年のKeyboard magazineのTom Oberheim氏のコラムの中にもこのCEM3350のことが書かれています。 ネットで見つかる資料は2Pageの簡単なものしかありませんが当時の資料としては21pageにおよぶ詳しい資料も存在します。

CEM3350のData sheetによると

* Fo= GmF/2π√(Clp*Cbp)
* Q=(GmF/GmQ)*√(Clp/Cbp)

よって Clp=Cbpの時は

* Fo=GmF/2πC
* Q=GmF/GmQ

となります。 また

GmF= (Iref/Vt) Expo(-Vcf/Vt)       * Vcf > 60mV
GmQ= (2Iref/3Vt) Expo(Vcq-Vcf)/Vt)    * Vcq - Vcf < -60mV
Attenuation Factor = (Cbp/Cc)+1

* Cc=coupling capacitor (HP mode時のカップリングCap.)


汎用OTAでGmF=GmQとした時の各modeでの電圧特性を以下に示します。


* LP/BP modeでGmF=GmQの時Q=1(リニアスケール)


* HP/BP modeでGmF=GmQのQ=1(リニアスケール)

上記の式の通り F0位置で GmF=GmQで Q=1となりました。


Q=1でのGmF1まわりの電流特性


* LP/BP modeでQ=1の時の電流特性(リニアスケール)
緑: GmF1出力
白: GmQ電流
黄: 1次HPF電流
桃: Cap.に流入する電流
青: 1次並列Filter特性

Q=1の時 GmF1出力電流は 棚型BPF特性になっておりこれは GmF1の入力端子において印加信号レベルが2次LPFの1/2になっているということです。 HP/BP modeでも同様に棚型BPFが生成されます。

GmF1の出力が棚型BPFなので並列型1次filterで分解されるLPF、HPF成分の特性はピーク、通過帯域のGAINが全く同じで特性が逆な1次LPFとHPFに分流することになります。 上記の青の特性とBPF特性に囲まれた内にLPFとHPFができる。 VCRを流れる電流はピークのあるLPFと逆方向の1次HPF特性によってピークが取り除かれ、ほぼフラットな特性となっているという特徴的な状態とQ=1の値時はなります。

すなわちQ=1の時は積分器のFc(F0)とCR1次filterのFcが同じになる時という特別の条件と言うことになるわけです。 さらにこの場合SIG INからの分圧を電圧源とする1次HPF特性電流の通過帯域での振幅値と棚型BPFの棚部分の振幅とが同じ値となりCap.に流れこむ電流の通過帯域の振幅は1次HPF特性に棚型BPF特性を足したものになりこれがF0位置でのQ=1を作り出しています。


以下に data shhetから LPF、BPFの周波数特性を示します。


* CEM3350 Data sheetから周波数レスポンスの図


* 伝達関数 / Fo / Q


CEM3350は2組のFilterを使って多種なVCFを作ることが可能です。 以下にdata sheetとnews letterのsynthsourceに掲載された回路の一例を示します。


* synthsourceから

bufferしていないfilterのoutをそのままもうひとつのfilterの電圧INに接続できるメリットは有用でこれによって最小限の部品で複雑なVCFが構成できるのがCEM3350の良さでしょう。 またCEM3350の特徴としてFeedthroughが小さいことが上げられます。 たとえばCEM3320のFreq CVで60mV、 resonance CVで200mVに対してCEM3350ではFreq CV、resonance CVで1mV程度となっています。

上記の回路ではdiodeによる overdrive reduction回路が搭載されています。 方式としてはdatasheetに書いてあるものに準拠していますが左図のLP outからBPF outに戻している部分は極性反転の必要性からかTr.のインバータを追加しているようです。



* DataSheetから

一見filter inputからの信号がパラってLPF inにいっているように見えたりもしますがそうではなくHPF outをダイレクトにLPF INにつないだ直列Filter構成です。 KORGのtraveler風の HPF/LPF VCFが CEM3350、1個と dual OP 1個でできてまいます。



昔 ARP CHROMAの VCFを作りたくて購入したCEM3350が手付かずで残っていますのでこれを機会に何かを作ってみたいと思いました。 それ以前に基本的な考え方はよいとしても CEM3350の動作が汎用OTAのシミュレーションと同じなのかそうでないのかは確かめる必要はあるでしょう。 辻褄が合わない部分が何点かありますので。

汎用OTAでのシミュレーションでの疑問点
1: OP AMO出力後のGAINが UNITYでなく2倍になる。
2: LP/BP modeでQを上げると通過帯域は下がる?



上記のメーカー製の Synthの VCFはどの機種も凝っていてVCF IC chipを使っているにもかかわらず一見しただけでは何をやっているのか理解できません。 唯一DIYの Digisound のunitだけは基本回路を利用しているの動作がわかります。 と言うことで各社の VCFの構造を理解すべく回路動作を調べて見ることにします。


1: ARP CHROMAのVCF構造
2: CRUMAR SPIRITのVCF構造
3: SYNTON SYRINXのVCF構造



<2018/02/12 rev0.51>