このCEM3350の SVFは動作理解が普通のSVF回路より難しいので一般的なOTAの等価回路を用いてGmqのOTAの付近をシミュレートして見ました。
* 電圧特性 (Q関係) *
Gmqに対する制御電流大時(抵抗値小)
白: OTAの入力の両端子間電圧
緑: OTAの (+) IN
桃: OTA OUT (-) IN
OTAの両端子間電圧にNotch特性が出ておりそれを反映して BPF出力はQが低い。
Gmqに対する制御電流中時(抵抗値中)
Notch特性が弱くなった分 BPF出力のQは高くなる。
Gmqに対する制御電流小時(抵抗値大)
Notch特性が逆特性になって BP出力のQを増強させています。 これは予想外の反応ですが....。 こんなところがポイントかも知れません。
* 電流特性 (初段のCap.に流入する電流)*
Gmqに対する制御電流大時
黄: capacitorに流入する電流
白: Gmqの出力電流
緑: Gmf1のOTAの出力
予想通りCapacitorに流入する電流は2次のHPF特性で GmqのOTA outは notich特性の電流
。 Gmf1の出力電流は棚型LPFというのが意外です。
* 上記電流の位相特性
Gmqに対する制御電流小時
2次HPF電流のFcではQが上昇。 Notch特性が逆特性になって Gmf1の特性が通常の棚型HPF特性になっていますが1次のHPFであることが意外。
* 上記電流の位相特性
どちらにせよ通常の電圧出力型の SVFに較べてCEM3350タイプの電流出力型は動作がむずかしいように思えますが本質は同じSVFです。
LPF/BPF modeにおける電圧/電流特性のイメージ
Gmqまわりの動作がわかりにくいです。 Gmqの(+)と(-)端子間の電圧差がnotch特性でそれを受けて出力電流および入力電流がnotch特性。 Gmqの出力電圧は Gmf1のOutというか0.02uFのCap.により発生する積分電圧なので当然BPF特性。 Gmf1の出力についている0.02uFのCap.に印加される電流は当然 2次のHPF特性なのですがこれは Gmq(VCR)の出力電流とGmf1の出力電流が合わさった結果でGmf1outはQが小さいすなわちVCRのRが小さい時、棚型LPFの電流特性になっておりこの電流値はGmqを流れる電流に較べて小さい。
またQが大きいと棚型HPF特性になりGmq(VCR)を流れる電流に近づいていきます。 VCRの値値がさらに大きくなればGmqの電流経路が遮断されるに近い状態でその時は GmF1の電流はQの大きい棚型HPF特性ですが棚部分は最少になるので実質 Qの大きい2次HPFになります。
電流MIXタイプのSVFの動作は複雑で当初理解に苦しみました。
Gmqは上図のようにVCR動作ですので可変抵抗と等価です。 実際この回路の Gmq部分を抵抗に変えても同様の特性。 この抵抗値が大きい方がnotch filter効果は弱く小さい方が大きいのですが大きくするとFc位置でnotch特性でなくピークができますがBPF特性ではありません。 シミュレーションでは3KΩくらいでこのnotch特性が平坦になりました。 それより大きいとFcでピーク。
Qが小さい特はGmF1の特性が棚型LPFというHPFと逆な特性になるのが奇妙ですがその原因はGmF1の(+)入力端子の印加信号電圧の振幅と(-)端子に印加されるGmF2の2次LPF電圧の振幅が同じでなく差があり後者の方が大きいことからくる反応で電圧型のSVFのように単純に逆相MIXが生じないことに原因があります。
このように動作を複雑にしている原因は上図のように本来の積分器によるFilterに加えて電流入力型の1次Filterさらに直列型の1次filterが同時に動いているために複雑な動作となります。 この2っのFilterのFcはVCRのRの値と0.02uFのCap.の値で決まるのでVCRの値を変えてQをコントロールすることはこの filterのFcを動かしていることに他なりません。 また0.02uFのCap.とGmFの値で積分器のFcが決まるため0.02uFのCap.は計3っのfilterのFcにかかわる要素となります。
Fig1: 全体の電流/電圧特性の図
Fig2:定電流入力1次Filter、直列型1次Filterの説明図
Fig3:VCRとCap.に流れる電流MIXの特性
Fig4:Qが小さい特と大きい時で分流した電流の特性
やっていることは基本OP AMPのSVFと同じなのですが電圧出力をする為のBuffer AMPを省略してしまうとこれだけ複雑になってしまいます。
以下に各特性を示しますが電流MIXの様子がわかりやすいようにY軸はリニアスケール表示を基本とします。
GmF1まわりの電圧
* Qが大きい時(Y軸リニアスケール)
白:GmF1の(-)端子と(+)端子との差電圧(GmF1の電流出力と同特性)
緑:GmF1の(-)端子電圧
水:GmF1の(+)端子電圧
黄:GmF1のCap.電圧
基本 LPFの印加信号(SIG IN)電圧との逆相MIXですがSIG INとLPF電圧レベルが同じでないので出力電流は棚型HPFとなっています。
* Qが小さい時(Y軸リニアスケール)
上図と較べてさらにSIG INの電圧とLPFの間に差があるので出力電流はHPFになることができず1次の棚型LPFとなっています。
GmF1まわりの電流
* Qが大きい時(Y軸リニアスケール)
白:GmF1の定電流出力
桃:VCRを流れる電流
黄:GmF1のCap.に流れる電流
0.02uFの Cap.を流れる電流は棚部分がとれて普通のQの大きい2次HPF特性になるのでそれを積分したCap.の電圧特性はQの高いBPF特性になります。 棚部分の電流がVCRに流れるということでしょうか。 またFc以降の帯域でGAINが上昇しています。
* Qが小さい時(Y軸リニアスケール)
0.02uFの Cap.を流れる電流は上記と同様棚部分がとれてLPFからHPFに変化しており上図ではわかりにくいですがSlopeは2次特性になるのでCap.電圧はQの低いBPF特性となります。
電圧源、電流源はあわせて2個。 発生する電流は3系統です。
1:GmF1の定電流源はVCRと0.02uFのCap.により構成される定電流入力型の1次Filterに対して R(LPF特性)とCap.(HPF特性)のインピーダンス比で分流。
2:SIG INの分圧電圧がVCRと0.02uFのCap.で構成される1次filterに対して1次HPF特性の電流が流れる。 VCRのRの値が小さいすなわちQの小さい時の方がこの電流は大。
この3個の電流がVCRとCap.に対して重畳される。 定電流入力filterのRへの分流分はFc以降は低下するのでVCRに流入するのはFcの周波数付近まで。 これと1次 HPF電流の差(逆相MIX)がVCRに流れる電流。
cap.に流入する電流は定電流入力filterのCap.への分流要素 + 1次HPF電流の和。 両filternのFcは積分器のFcとは異なり 0.02uFの Cap.は共用されている。
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通常は隠れて見えないGmF1定電流出力の分流結果ですがGmF1出力は単独では取り出せないので以下に分流具合の予想図を示します。 大枠は合っていると思われます。
* Qが小さい時の電流特性(Y軸リニアスケール)
上図の黄色の1次HPF電流とGmF outが分流したLPF電流によるMIXにより
1: VCRを流れる電流に notch特性の発生
HPFと黄色の1次HPF電流の同方向MIXにより
2: 棚型1次LPFがCap.を流れるに際しては2次HPFに変貌
定電流入力1次filterの特性によりGmF1電流はLPF特性の電流とHPF特性の電流に分離されます。 入力電流がどんな形でもLPF、HPFに分離されるのが不思議というか。 この際入力電流特性がフラットならおなじ大きさのLPF/HPF生成されますが、入力がフラットではないのでそれはLPF/HPFの大きさの差になってあらわれます。
並列filterの入力としての棚型LPFの棚の部分は分解されて電流が少ない方のHPF特性の通過帯域になります。
VCRの値が小さくてQが小さい場合はLPF成分が大きくこれはSIG INからのHPFの振幅と同様なのですが両者のFcは離れているため両者が干渉するのは積分器のFc付近のみでそれ以外は両者の特性が反映され積分器のFC付近にnotch特性が現れます。 この部分電圧的に見れば Cap.の流れる電流で発生した電圧がBPF特性、それに対してSIG INはフラットな特性ですから両者の逆相MIXで VCRの両端子はnotch特性の電圧が発生していることになります。
またHPF特性の分流分が小さく Cap.に流入する電流はSIG INからの1次HPF特性が主になりますが上記の図を見ると両1次HPFが重なって2次のHPFになるようです。 積分後の電圧特性はQの小さいfilter特性になります。
この反応、なぜかKORGのMINI KORG 700のトラベラーの逸話を思い出してしまいました。 実にCEM3350は synthのfilterっぽいfilterですね。
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* Qが大きい時の電流特性(Y軸リニアスケール)
GmF1の分流成分にピークが発生しておりGmF1の特性としては棚型の1次のHPF特性。 この場合は上記っと異なりHPFの棚型部分がLPFの通過帯域となります。 1次HPFですがピークが大きくこのピークは LPF/HPFで分割されるため分割された両filterにピークができます。 LPF成分とHPF成分を較べるとHPFの方が大きい。
LPFとSIG INからの1次HPF電流とのFcが近くLPF側にピークがある為積分器のFc付近にはnotchでなく小さなピークができます。
cap.に流れる電流は分割されたHPF成分とSIG INの1次HPF成分でFc以前は後者によって前者の振幅が減算される形Fc以降は加算される形になり2次のピークの強い特性になり通過帯域の振幅がMIXされる前に較べて増加していますのでピーク感は減っています。
棚型HPF/LPFをLPF/HPFに並列filterで分解するとやはりLPF/HPF特性が出現するというのは当たり前かもしれませんが興味深い反応で両者の振幅レベルが異なっているので棚型になる。 両者の振幅レベルが同じであればフラットな特性として現れるのであれば普通のLPF/HPFの発生と同様。 両者がさらにピークを持っていれば棚型のBPF特性となるのでしょう。
GmF1の電流出力を分離したHPF成分とSIG INからのHPF成分が積分されそれがBPF特性。 もう一回積分して2次LPF特性、それとSIG INからの印加信号の逆相MIX。 電圧出力のSVFならここで2次のHPF特性が出るが CEM3350ではそうはならずこのGmF1電流にVCRに流れる分の電流が重畳されている状態。
この為GmF1電流は2次のHPF特性になれず棚型の1次のLPF --- BPF --- HPF特性と言うスロープがゆるい特性になっておりVCR電流がけずられることでよりスロープのきつい2次のHPF特性になる。 VCRの値が小さい時はよりVCRに流れるLPF電流を確保するためにGmF1 outは1次LPF特性になっているし単純なLPFではHPF分流分を確保できないのでFc以降は棚型になって HPFの通過帯域分を確保する。 出力がbufferされていないのであらかじめ流出分が補われてて系がバランスしているというイメージでしょうか。
ピーク部分を除けばVCRに流れ込む電流と逆にVCR側からCap.に流れ込む電流の大きさは同程度でこれがFcを境にクロスフェードしているイメージ。 VCRの値が小さい特はVCRからの1次HPF電流は電流値が大きいがQは当然小さくこれが Cap.に流入する電流として支配的なため積分された結果は振幅は大きいがQの小さいBPF特性となるので最終的にGmF1の(-)端子に印加される電圧は(+)端子に較べて大きい。 この為MIX結果はFcより低い帯域のGAINの大きいFc以降は小さい棚型LPF特性になっている。
VCRの値が大きい時はGmF1出力の特性にピークができており、分流比もcap.に向かう方が大きくなり積分結果はQが大きいBPF特性になる。 VCRから流入する1次HPF電流が少ないこともあってこの成分はCap.電流に対して通過帯域を上昇させる要素にはなるが上記のQが小さい時ほどは振幅に関与しないのでBPFの振幅は小さくなる。 GmF1の入力での電圧MIXの結果は Fcより低い帯域では振幅が小さくFCでピークを持ち Fc以降の帯域の振幅が大きい棚型HPF特性となる。 両者においてこの特性はVCRへの電流の流出、VCRからの電流の流入値とバランスする特性になっている。 ややっこしくはありますが電圧出力のSVFにくらべてよりダイナミックな電流変化が楽しめます。
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以下に上記のグラフから得られる動作原理を示します。
1: フラットな入力信号電圧と逆相で入力される電流特性の変化
GmF1の入力やGmF1の電流出力まわりは基本フラットな入力信号電圧とLPF特性、HPF特性の電流MIXとなるのでMIX後は基本逆特性のfilter特性が出現します。 さらにこの場合両者の電流レベルがそろっていないので棚型部分が発生します。 この棚型部分は最終的な2次HPFでは消えています。
これはなんだろうと考えてみると電流MIX時のVCRを流れる電流に消費されるという動きをします。 棚部分が十分なくらいVCRを流れる電流が小さければ VCR側に電流が消費されてもQの高いBPF電圧を発生させるためのGmF1からの0.02uFへの定電流は確保されていることになるとも考えられそうです。 VCRのRが小さくなれば棚部分だけではVCRに流れる電流分を支えられないので特性が変化するしCap.に流れる分流も減少する?。
* 逆相MIXの原理(2次Filterの場合)
* 印加信号レベルと2次LPFのレベルが同じ時(Y軸リニアスケール)
1次特性のfilterの逆相MIXでは完全に逆特性(LPF/HPF)が生成されますが2次filtetrの場合はSIG INが逆相であっても2次filterの FCでの位相が90度回転しているのでFc前後の帯域では正相に近い位相になるためFc付近でピークが発生します。
この部分はSVFの動作原理のからみとしても重要です。 すなわちSVFは逆相MIXだけでなく系が帰還しててループしているのでほおっておけばFcで発振を誘発する構造であることの原理部分でもあります。
* 印加信号レベルが小さい時(1)(Y軸リニアスケール)
CEM3350 SVFのQが高い状態と同様の反応で棚型のHPFが発生します。
* 印加信号レベルが小さい時(2)(Y軸リニアスケール)
CEM3350 SVFのQが低い状態と同様の反応でHPFにはなりません。
* 印加信号レベルが2次HPFの1/2時(3)(Y軸リニアスケール)
なんと BPF特性になっています。
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2:Qの値をコントロールする仕組み
SVFにおいてFc付近は正帰還がかかり、SVFの構造は信号がループする構造なのでFc位置での印加信号(SIG IN)電流量を下げることでQをコントロールしているわけです。 このCEM3350においてはVCR側に流れる電流とCap,側に流れる電流の分配でQをコントロールしているようです。
cap.に流れる成分は2次HPF特性なので積分すればピークの元となるBPF特性が生成される。
GmF1の定電流出力が並列1次filterの特性でLPF特性とHPF特性に分解されVCRの抵抗が小さい時は1次filterのFcが高くなりLPF成分が多くHPFは少なくなり積分される主な電流としてのHPF成分のピークが減るということです。
本質的にはOP AMPの SVFと同じ構造ですが、OP AMPの方は入力段の信号MIXに際してSIG INのFc付近での GAIN低下をBPF出力を逆相で戻しているのに対してCEM3350では積分器のBPF特性発生直前の部分で行うという違いがあります。
と言うかCEM3350の場合は電流MIXなのでOP AMPの SVFのように機能が分離されていないので同じ場所で複数の反応が同時に起こる。
3:特性変化の様子
* GmF1出力 0.02uF Cap.付近の電流の重畳と filter特性の変化
電圧型の普通のSVFと異なり GmF1の入力両端子間電圧差を反映してQが小さい時はGmF1出力は棚型の1次LPF特性になります。 GmF1出力端子の 0.02uFの Cap.に流入する電流はGmF1の定電流の分流分と VCRからの1次HPF特性の電流です。
重畳された結果の電流はFcより低い帯域ではGmF1の電流の振幅が落ちる方向で Fcより高い帯域では印加信号電流が加算される形で現れるので合成結果は2次のHPF特性が出現します。
上図左の一番下の図はGmF1の定電流とVCRを流れる電流のMIXの際にVCR電流がどのように作用しているかを示しています。 Fc以前は定電流の振幅を低下させる方向に、Fc以降は定電流の振幅を増加させる方向に働いています。 このグラフをよく見るとこれは1次の微分特性というか1次のHPF特性を示しています。 なので Fc以前の帯域は定電流出力の1次HPF特性を2次の HPF特性にするように働いておりFc以降は単に GAINの増加になっています。
1次の CR filterですからこの場合の1次Filterの Fcは VCRのRと0.02uFで決まる値ですから SVFのFCとは異なることになります。 VCRに流れる電流が大きいほどこの1次Filterの Fcは高くなり通過帯域での GAINもあがります。
今回のシミュレーションではSVFのFcは固定で特定Fcでの反応ですが、本来の CEM3350の
Gmqの制御電圧には GmFのFcの制御電圧も加えられていることからそれはこの1次LPFのFcに関係するパラメータであることがわかります。 すなわちある程度GmQの値は GmFの Fcの値に近い範囲で追従する必要があると言うことです。
この電流MIX型の SVFは普通の電圧型のSVFに較べて大変この部分が複雑であることがわかります。 単純に使用するのであればこの部分はわからなくてもいのですがCEM3350使用の ARPの CHROMAの VCFを理解するにはこの部分の理解も必要だと思います。
* LPFの状態変化と GmF1電流出力の特性変化
GmF2のLPF出力に関しては VCRの値が大きいほど 2次LPFのQが上昇して通過帯域のGAINが下がる特性を示し、 GmF1の定電流出力は Qが小さいと棚型LPF特性、大きくなるに従って棚型BPF特性、Qの高い2次HPF特性と変化します。 Qが大きい特は VCRの値が大きくVCRを通しての電流のいきき最少になるのでSVF本来の 2次HPF特性が出てきます。
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